難しすぎる肩痛の解釈
何かしらの肩関節疾患を担当されている方へ。
その患者さんの肩痛の原因について適切な解釈はできているでしょうか?
個人的にあらゆる関節の中で、痛みの解釈がもっとも難しいのが肩関節だと感じています。
というのも、侵害受容器が豊富で痛みを感じやすい組織が多く、さらには肩関節自体の自由度が高いため、痛みの再現性を出すことも容易ではありません。
また神経の分布もかなり複雑で辻褄の合わない痛みと対峙することも少なくありません。
ここでお話する腋窩神経もまさにこの肩痛の解釈を複雑にするものの代表格です。
腋窩神経障害はスポーツ分野をみられている方であれば、オーバーヘッドスポーツで好発するため、聞き馴染みがあるかもしれません。
ただ実際にはそれだけに留まらず、肩関節周囲炎でも腱板断裂でも腋窩神経障害が合併していることは稀ではありません。
そのため、どのような肩疾患でもあろうとも腋窩神経障害の知識は必須だと言えます。
今回は基礎的な部分から深ぼっていきますので、今現在、腋窩神経障害のえの字もわからない方も読み終わった頃には大まかなイメージはついていることと思います。
腋窩神経ってどんな神経?

これが腋窩神経です。第5・6神経根から起始し、腕神経叢後束から分岐しています。
ここで必ずおさえておきたいのが、支配領域です。
腋窩神経は肩甲骨外側で前枝と後枝に分かれ、前枝は三角筋前部と中部を、後枝は小円筋、三角筋後部、上腕外側部の皮膚の感覚を支配しています。
この上腕外側部の皮膚知覚を支配しているというのが大きなポイントで、臨床でよく遭遇する上腕外側部痛は、腋窩神経障害である可能性があります。
ただここで厄介なのが、実は腋窩神経障害由来の痛みはこれ以外の部位にも表出されることがあります。
上腕外側部痛はあくまでヒント
冒頭にお話していた神経の分布が複雑というところがここに絡んでくるのですが、
このような報告があります。
また、腋窩神経前肢の分布については、上腕二頭筋腱・肩峰下滑液包まで拡散しているものもあるといわれている!!
Nasu H, et al. Distribution of the axillary nerve to the subacromial bursa and the area around the long head of the biceps tendon. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2015 Sep: 23(9):2651-7.
つまり、上腕外側部痛を認めていなかったとしても、それだけの要素で腋窩神経障害の疑いを排除してしまうのは、時期尚早だということになります。
どうしても様々な原因を探る際に痛みが第1のヒントになりやすいのですが、腋窩神経障害に関しては、痛みはあくまでちょっとしたヒントにしかすぎないことと捉えたほうがいいかなと考えています。
腋窩神経障害はなぜ起こる?
腋窩神経障害は基本的に周囲組織によって腋窩神経自体が絞扼されることで起こります。
ここでもう一度解剖の話に戻りますが、ここに注目です。

この腋窩神経が通過している隙間は四辺形間隙(quadrilateral space:QLS)といい、ここで腋窩神経が絞扼されることで腋窩神経障害(quadrilateral space syndrome:QLSS)が起こりやすいです。
このQLSを構成している組織としては、外側が上腕骨近位端、内側が上腕三頭筋長頭、上方が小円筋、下方が大円筋です。
つまり、このどれかが腋窩神経障害を引き起こす可能性があります。
例えば、肩関節周囲炎や腱板断裂においては上記の筋が緊張することで絞扼に至ることが往々にしてあります。
またオーバーヘッドスポーツで言うと、肩外転外旋時や水平屈曲時に大円筋や小円筋が緊張することで絞扼されることがあります。
さらにオーバーヘッドスポーツの場合、外旋から内旋への急激な変化によって絞扼されていたところへ摩擦が加わり、麻痺が起こることも考えられます¹⁾。
QLS以外の原因を推察
腋窩神経障害と聞くと、上述したQLSでの絞扼が連想されがちですが、実は他にも要因があります。
そもそも器質的な問題を度外視してはいけません。
例えば、Bennett骨棘(肩甲骨関節窩後下方の骨棘形成)²⁾やparalabral cyst(肩甲骨棘窩切痕に好発する嚢胞)³⁾による圧迫が挙げられます。
器質的な問題が絡んでいる場合は、どれだけQLS構成筋を緩めようが改善の兆しはほとんどありませんので、Drへ相談するのが得策です。
また機能的な問題として、QLSでの絞扼以外にもう1つ着目すべきものがあります。
それが広背筋による圧迫です。
広背筋の停止部である上腕骨付着部の位置関係より、腋窩神経が幅拾い付着部腱間で絞扼されるといわれている!!
Koga R, et al. Quadrilateral Space Syndrome With Involvement of the Tendon of the Latissimus Dorsi.Orthopedics. 2017 Jul 1:40(4):e 714-e716.
肩関節を前方から見ると、腋窩神経は広背筋腱の深層に位置しており、肩関節の外転外旋動作によって広背筋が牽引され、緊張位になると、上腕骨と広背筋停止腱の間で挟み込まれることがあります。
そのため、QLS構成筋へ介入した後に、症状が改善しないようであれば、この線を疑ってみるとよいかと思います。
腋窩神経障害の評価は?
ここまでの話の流れでは、分かりやすいように解剖とそこに付随した介入のヒント(QLS構成筋、広背筋を緩めること)をお伝えしました。
ただ上述したように痛みだけでは腋窩神経障害だと判断することが困難です。
そこで他にいくつか評価を合わせて行う必要があります。さきにざっと羅列すると
・QLSの圧痛
・肩外転外旋時痛
・肩外転外旋時の知覚障害
・三角筋、小円筋のMMT
このあたりです。
個人的にとくに重要視しているのが、肩外転外旋時の知覚障害です。
腋窩神経は上腕外側部の知覚を支配してますので、肩外転外旋位にて腋窩神経の絞扼を意図的に作り出し、知覚障害が出るかを確認します。
もしもこの操作によって知覚障害が増悪するようであれば腋窩神経障害である可能性が高まります。
痛みを単独で評価するよりは知覚を頼りにしたほうが特異度が高いかなと思います。
結局リハでは何をすればいい?
まずこれまでの話でも出てきましたが、QLS構成筋や広背筋を緩めること。
Bennett骨棘などの器質的な問題であれば、Drへ相談すること。
この2つは大前提として重要です。
あともう1つマストで行なっていることとして、腋窩神経自体の滑走性を獲得することです。
というのも、実は腋窩神経周囲には豊富な脂肪性結合組織が存在しています⁴⁾。
長期的な絞扼により一定期間滑走が阻害されると、この脂肪性結合組織と癒着を起こす可能性があります。
だからこそ腋窩神経を動かす必要があると考えています。
筋の緊張を除いた状態で、肩関節内旋外転伸展位へ誘導し、腋窩神経を末梢側に伸張することが出来るといわれている!!
岩本航. 整形外科医のための肩のスポーツ診療のすべて, 日本医事新報社, p469, 470 2021.
筋の緊張を除いた状態で、この操作ができれば、腋窩神経の滑走性を出すことが可能です。
あくまで今回ご紹介した内容は、腋窩神経に対する局所への介入の一案となりますが、実際には動的評価からQLS構成筋の緊張が高くなった理由などを追求し、全身をみて根幹を潰していく必要があります。
是非、そのあたりまで推察してみて下さい。
<引用文献>
1)菅原誠, et al. スポーツによる腋窩神経麻痺 肩関節痛との関連について. 肩関節 10.1 (1986): 68-71.
2)岩堀裕介, et al. 投球による腋窩神経障害の発生状況. 肩関節 34.3 (2010): 891-894.
3)岩本航. 整形外科医のための肩のスポーツ診療のすべて, 日本医事新報社, p469, 2021.
<参考文献>
林典雄, et al. 運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 上肢編, 運動と医学の出版社, 2017.
