こんにちは。
CoCoNetのSHO(@vita_coconet.sho)です。
本日は臨床場面で頻繁に目にする
「肩甲骨のジスキネジア(Scapular Dyskinesis)」について整理していきます。
肩甲骨ジスキネジアとは何か
肩甲骨ジスキネジア(Scapular Dyskinesis)とは、上肢挙上などの運動中にみられる肩甲骨の運動異常・協調性の破綻を指します。
ここで重要なのは、
肩甲骨ジスキネジアは「診断名」ではなく「運動中に現れるサイン(sign)」であるという点です。
つまり肩甲骨ジスキネジアは、
- 肩関節疾患
- 頸部由来症状
- 胸郭・体幹機能低下
など、多様な問題の“結果”として表出する現象として捉える必要があります。
しかし、この運動のサインを正しく読み取ることができれば、症状との関連性や介入すべき部位の優先順位を明確にできます。
なぜ肩甲骨が重要なのか
上肢挙上時には、
肩甲上腕関節・肩甲胸郭関節は協調して動く必要があります。

これがいわゆる
肩甲上腕リズム(Scapulohumeral rhythm)です。
正常では
- 初期:上腕骨運動優位
- 中〜後期:肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋が増加
このリズムが崩れると、
- 肩峰下スペースの減少
- 腱板・滑液包へのストレス増大
- 回旋筋腱板の機能低下
といった問題が生じやすくなります。
このように、肩甲骨は 肩甲上腕リズムの一部として、上肢機能全体を支えるキーパーツになります。
肩甲骨ジスキネジアの考え方
肩甲骨ジスキネジアとは、
肩甲骨の位置や動きが異常になる状態を指します。
これは決して「肩甲骨だけの問題」ではなく、
- 筋の協調性の不調
- 体幹・胸郭との連鎖不全
- 運動パターンの異常
など、多因子によって生じる運動障害の一部として捉えるべきです。

理由としては、
肩甲骨を含む肩甲上腕関節・肩甲胸郭関節は、上肢機能を構成する要素を段階的にみてみると、土台となる体幹や下肢の影響も受けやすいような位置にあるため多因子による影響が生じやすくなります。
肩甲骨ジスキネジアの代表的な分類
臨床では、以下のような視覚的特徴として捉えます。

- Type I:下角突出型(前傾・前方化)
- Type II:内側縁突出型(内旋・内転優位)
- Type III:上方(偏位・早期)挙上型
- Type IV:左右差なし(正常パターン)
※分類そのものが重要なのではなく、
「どの運動要素が過剰 or 不足か」を読み取るためのツールとして使うことができます。
筋機能との関連
肩甲骨の運動は、複数の筋によるフォースカップルによって制御されています。
2つ以上の筋肉がペアになって反対方向に力を生み出し、関節にスムーズな回転運動(トルク)を与えることで、関節軸の安定と適切な動作を促す仕組み。
肩甲骨のフォースカップル機能の中で特に重要なのは

- 上方回旋フォースカップル
→僧帽筋(上・中・下)+前鋸筋が関与 - 後傾フォースカップル
→僧帽筋下部+前鋸筋が関与 - 外旋フォースカップル
→僧帽筋中部+前鋸筋が関与
が挙げられます。
肩甲骨の「上方回旋・後傾・外旋」の機能低下は肩関節の疾患や肩甲骨異常で多く見られる.
特に『前鋸筋の筋出力』,前鋸筋と『僧帽筋中・下部繊維との協調性』は肩甲骨の機能改善で重要とされている.
Ludewig PM, Reynolds JF. The Association of Scapular Kinematics and Glenohumeral Joint Pathologies. J Orthop Sports Phys Ther. 2009 Feb;39(2):90-104.
また、
- 広背筋
→下制・下方回旋: 広背筋は肩甲骨全体を引き下げる作用があるため、挙上時のスムーズな上方回旋を妨げます。
後傾の制限: 特に「広背筋の硬さ(Stiffness)」は、腕を挙げた時の肩甲骨の後傾(Posterior tilt)を制限することがわかっています。 - 小胸筋
→短縮すると肩甲骨を前傾・内旋・下制させます。これは僧帽筋下部・前鋸筋の作用(後傾・上方回旋)と真逆の動きであり、物理的な制限因子となります。Borstadらの研究により、小胸筋の短縮が肩甲骨の運動学的異常(Dyskinesis)およびインピンジメントの直接的な原因となることが示されています。 - 肩甲挙筋
→上方回旋のブレーキ: 肩甲挙筋は肩甲骨の内側縁上部を引き上げるため、下角が外側に開く動き(上方回旋)に拮抗します。前方傾斜の助長: 小胸筋とともに、肩甲骨を前傾させる作用も持ちます。
などの過緊張や短縮も、ジスキネジアを助長する要因となります。
理想的な肩甲骨フォースカップル機能は
上腕骨挙上時のインピンジメント軽減
肩峰下スペースの確保
上腕骨頭の求心位保持
ローテーターカフの活性化
Ludewig PM, Reynolds JF. The Association of Scapular Kinematics and Glenohumeral Joint Pathologies. J Orthop Sports Phys Ther. 2009.
Ludewig PM, Braman JP. Shoulder impingement: biomechanical considerations in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2011.
に関与するとされています。
評価の実際:何を・どう見るか
肩甲骨ジスキネジア(Scapular Dyskinesis)に対して現時点で「単一テストで確定診断できる評価」はなく、①動的観察(SDT)→②症状修正テスト(SAT/SRTなど)→③原因となりやすい機能障害の特定の“バッテリー型”が推奨されています。

あくまでも肩甲骨を由来とした症状なのかを絞るためのフロー(流れ)になります。
原因因子としては、様々な要因が関与していることが多いため、機能や構造の側面から評価し原因を絞っていきましょう。
肩甲骨ジスキネジアを評価する方法としては
主にScapular Dyskinesis Test (SDT)を実施していきます。
Scapular Dyskinesis Test (SDT)

筆者は簡易的な視診として『Scaption Elevation』も加えて実施することが多いです。
このテストでは重りを持たせ動作を行うことで異常運動が観察しやすくなることが示唆されているため、体重に応じた重りをもたせることは大切となります。

以下の画像を例として評価の参考にしてみてください。

- 上方回旋は出ているか
- 後傾が途中で止まっていないか
- 内側縁・下角の浮き上がり
→「静的な姿勢」より「動的な姿勢」を観察することが重要となります。
症状修正テストとしては、
SAT(Scapular Assistance Test)やSRT(Scapular Retraction Test)について説明していきます。
Scapular Assistance Test(SAT)

症状のある側の上肢を外転挙上する際に、肩甲骨の上方回旋をサポートすることで、肩関節にかかる負担を軽減する狙いがあります。
肩甲骨の動きが円滑化することで、症状が緩和することがあります。
個々で肩甲骨の動きには違いがありますので、片側の症状の場合は健側の肩甲骨の動きを参考にして、評価すると良いかもしれません。
Scapular Retraction Test(SRT)

肩甲骨を安定させた上で、肩関節挙上の等尺性収縮を行ってもらいます。
Empty Can Testの肢位で行うため、疼痛が強い場合は注意が必要です。
肩甲骨を安定させた位置で筋の収縮を行わせることで、一時的に筋活動・発火・モーターコントロールを改善することができ、疼痛が軽減することがあります。
SRTは、Scapula Dyskinesiaだけでなく、腱板損傷において十分な感度・特異度・尤度比を示すので気になる方は調べてみると良いです。
介入の考え方
肩甲骨フォースカップルが破綻する(≒肩甲骨の適切な上方回旋・後傾・外旋が起きなくなる)主要因は、
特定の筋の「過活動・短縮」と、対になる筋の「弱化・遅延」というインバランス(不均衡)にあります。
前述した通り原因因子は様々ありますが、下記にもある通り筋活動比率やリズムの修正をしていくこと多いとされています。そのためここでは、機能不全と筋緊張/短縮への介入を考えていきます。
海外の多くの研究では、
単に筋力があるかないかではなく、『筋活動の比率(Muscle Activation Ratios)』、
特に UT/LT比(僧帽筋上部/下部比) の改善が重要視されています。
Ludewig PM, Cook TM. Alterations in shoulder kinematics and associated muscle activity in people with symptoms of shoulder impingement. Phys Ther. 2000;80(3):276-291.
Cools AM, et al. Rehabilitation of scapular muscle balance: which exercises to choose? Am J Sports Med. 2007;35(10):1744-1751.
肩甲骨フォースカップル介入は「順番」がすべてです。
肩関節痛や挙上障害を評価していると、
「前鋸筋が弱い」「僧帽筋下部が使えていない」
と感じる場面は非常に多い。
しかし臨床では、
前鋸筋や僧帽筋下部のトレーニングを追加したのに症状が変わらない
という経験も少なくないのではないでしょうか。
その理由の多くは、
肩甲骨フォースカップルへの介入が“順番を飛ばしている”ことにあります。
海外のレビューや臨床研究では、
肩甲骨ジスキネジアや関連する肩関節痛に対して、
「筋力強化は“最後”に来るべき介入である」
という立場が一貫して示されています。
ステップ①:僧帽筋上部が優位になる「条件」を先に取り除く
SATやSRTが陽性だったとしても、
すぐに前鋸筋や僧帽筋下部のトレーニングへ進むのは早いです。
多くの症例では、
僧帽筋上部繊維が過剰に活動せざるを得ない『環境』が存在していることが多いです。
代表的なのが以下となります。
- 小胸筋の短縮による肩甲骨前傾
- 胸郭伸展可動性の低下(運動誤学習など)
- 頸部・上部体幹の過緊張(肩甲挙筋短縮など)
- 呼吸パターンの乱れ(自律神経乱れなど)
これらが残ったままでは、
どれだけ前鋸筋を鍛えてもUT/SA比やUT/LT比は改善しにくいと筆者が考えます。
ステップ②:「筋力」ではなく「動かし方(運動)」を再学習させる
次に行うべきは、
SA・LTを“強くする”ことではなく、“正しいタイミングで使わせる”ことになります。
この段階では、
- 低負荷
- 小さな可動域
- 明確なフィードバック
が重要になります。
具体的には、
- Low row
- Inferior glide
- Wall slide(UTが上がらない範囲)
など、
UTを主役にしにくい課題が選択されます。
EMG研究では、
これらの運動が
UTの過剰活動を抑えながらSA・LTを相対的に高めることが示されています。
ここでの目的は「筋肥大」ではなく、
フォースカップルの“再配分”を中枢神経に学習させることになります。
ステップ③:フォースカップルを「負荷の中で」維持させる
動きの質が安定してきたら、
初めて負荷を伴うトレーニングに進む。
このフェーズでは、
- Push-up plus
- Prone Y
- Robbery / Lawnmower
といった
SA・LTの活動が高く、UT優位になりにくい条件を選択することが好ましいです。
重要なのは、
「どの筋がどれだけ働いたか」ではなく、
適度な負荷量で
UTが主導にならずに
上方回旋・後傾が維持できているか
という視点が重要になります。
ステップ④:全身運動の中で比率が崩れないかを確認する
最終段階では、獲得したい動作での再確認を行い動作エラーの軽減や新たな問題点を見つけていくのが好ましいです。
そのため、
- 立位
- 片脚支持
- 上肢+体幹の協調課題
といった全身連鎖の中で肩甲骨フォースカップルが保てるか課題調整しながら確認し、特異的な運動や動作の中で介入していきましょう。
まとめ
肩甲骨ジスキネジアの評価・介入は、
- 肩甲骨の運動異常を「サイン」として読み取る
- 評価から介入の優先順位を決定する
- 動作の再学習と制御をまず行う
- 筋力を段階的に負荷下で目的とする動作へ統合する
という段階的アプローチが臨床的にも論理的にも重要です。
肩甲骨を診ることは、上肢機能全体や上肢機能と体幹の関係性に対して介入していくときに役立ちます。
しっかりとみれるようにしておきましょう。

